Hong Kong Baptist UniversityのAssistant ProfessorをしているDr. Mateja Kovacicと共著で執筆した論文 “The Role of Thing-Making Cultures in Japan’s Manufacturing Industry: Toward Social Robots and Super Smart Society in the Digitalization-Servitization Shift”をSSRNで公開しました。
この論文は構想から3年を要しており、ようやく公開できて正直安堵しています。私は従来の製品販売にとどまらない多様な価値提供形態を目指す「製造業のサービス化」を研究テーマの一つとしていますが、各国の産業文化がサービス化の進み方やその形態に与える影響が国際的にほとんど議論されていないことに疑問を持っていました。例えば日本では、製造業ビジネスのあり方に関して、「ものづくり」や「ことづくり」、「共創」といった概念で様々に議論がされており、それらはグローバルのサービス化(servitization)の議論に影響を受けつつも固有の産業文化を形成し、日本のサービス化の流れを形作っていますが、グローバルの議論ではそのような各国の産業文化の固有性はほとんど考慮に入れられていません。これは日本に限った話ではないと考えており、サービス化を通じた製造業の事業の多様化を理解・促進する上で、不可欠な論点だと考えていました。一方、こういう産業文化を語る学術的見識が私には不足しており、実際に論文におこすところまでには至っていませんでした。
2018年に縁あって日本のロボット産業やものづくり文化を研究していたMateja(当時オックスフォード大学に在籍)と出会ってこの議論で意気投合し、Matejaの専門であるcultural studiesの観点から日本の製造業のサービス化とデジタル化について論じたこの論文を共同で執筆しました。もっともサービス化の議論はもっぱら社会科学である経営学分野、あるいは工学分野が中心で、人文科学であるcultural studiesの様式で書かれたこの論文はなかなかに特異に見えるかもしれません。その意味でprototypeな論文ではありますが、今後の製造業のサービス化研究、さらにはサービス研究において、こうしたcross-culturalな探求が不可欠だと考えています。近々日本語化もしたいと思っていますが、ぜひ多くの研究者・実務家の皆様にご覧いただき、内容・方法論両面でコメント・ご意見いただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。